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美しい描写の数々!青春モノ『No photos』を紹介!(小説家になろう 感想)

ご紹介頂いた小説の感想、第8弾。

作者様は日笠京太郎様。作品の名前は『No photos』

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ザックリあらすじ紹介

 ジャンルは、ヒューマンドラマ。その中でもバンド×青春の作品。

 主人公はギターを担当している軽音部の女子大生。現在は周りが初心者ばかりのバンドに所属している。しかし、バンドの演奏がなかなかうまくいかない。そんな中で、別のバンドに入らないかと勧誘される。主人公は、自分の気持ちと葛藤しながら青春を過ごしていく物語。ほんと、ザックリだけど。

 

葛藤する主人公

  葛藤とは、日常の些細な場面でも起こる。例えばダイエット中のとき、痩せてきれいなボディを手に入れたいという気持ちとおいしそうなおやつを食べてしまいたい気持ちが存在する。これらは、相反する気持ちだが、両方の気持ちを叶えようとするので人は苦しむことになる。(まあ、大体食べちゃうんだけどね。)

 今作の主人公はさっき紹介したしょうもない葛藤よりも、もっと大きな葛藤に悩むことになる。今続けているバンドをそのまま継続すべきか、新しいバンドを始めるべきか。読む前は、どっちも続ければいいじゃん。バンド掛け持ちしている人なんて死ぬほどいるよ、と思ったがことはそう単純ではないようだ。

 現在所属しているバンドは、メンバーのほとんどが初心者で構成されている。しかも、1ヶ月一緒に練習していない。この1ヶ月練習していないバンドメンバーたちの絆のほころびがリズムのズレという形で現れている。特に、ドラムとベースはバンドにおける屋台骨のような存在。そこが、崩れると言うことはバンド仲間との関係性が根本から揺らいでいると言うことを表しているのかもしれない。実際、仲間から辞めたいのなら我慢する必要はないって言われているからね。

 そんな仲間がバラバラの時に、主人公が別のバンドのメンバーのことを考えていることからも彼女の中で彼が大きな支えになっていることが分かる。しかし、新しいバンドの方は、本気でプロになろうとしているメンバーもいるぐらい本格的なバンド。どうやら、二つのバンドの継続は難しそうだ。今のバンドのまま、活動していていいのか。それとも、新しいバンドに移ってより自分の技術を磨いていくのか。この葛藤が、バンド仲間との友情と志村への好意にも重なっていて、より複雑な感情が入り乱れていく。ここの主人公のが本作の見所のひとつだ。

 

丁寧で引き込まれる描写の数々

 この作品を読んだとき、その丁寧な描写に圧倒されてしまった。本当に素人の方が書いた作品なのか?実は別の作品をパクっているのでは?と思わず疑ったほどだ。

 それぐらい描写が丁寧で、わかりやすい。

 個人的に好きなのは、最初の宅飲みの場面。最初の場面は、登場人物紹介と物語の背景や設定などが分かるように工夫されている、作者の一番の腕の見せ所だと私は考えている。今作ではこの場面を読むだけで主人公が大学生のバンド活動をしていること、「No Photos」のメンバーと主人公の性格とそれぞれの関係が一発で分かるように丁寧に描写されいる。関係ないけど35缶てなんのことかと調べたら、350ml缶の事だと初めて知った。・・・本当に関係なかったな、これ。

 特に引き込まれたのは心理描写。

 例えば、握りつぶした缶酎ハイをさらに握った時の尖ったアルミが食い込む感触の描写や湿ったコンクリートの描写。主人公が別のバンドに参加したいが自分の気持ちに素直になれない主人公を、そんな素直になれない自分の中の葛藤に対する暗い感情を見事に表している、と私は感じた。今までの読ませていただいた作品は作品のテンポや読みやすさを意識した、いわゆるライトノベルのような作品が多かった。だが、今作は小説のように場面ごとに美しい描写を堪能することができる作品なのでじっくりと作品を読みたい方には是非読んでほしい!

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